潜入捜査あり、
宝探しあり、
名探偵の謎解きありの
盛り沢山なエンタテインメント。
(オビの文面より)
海軍提督バロウズ卿が、〈王国〉周辺の海域を荒らす海賊連合〈南十字星〉を率いる謎の男リスターに誘拐された。提督救出の密命を受け、〈南十字星〉へ潜入したアラン・クリフォード大尉は、海賊たちの拠点の島で殺人事件に遭遇する。リスターに指名されて犯人捜しに乗り出したアランだが、海賊たちは次々と殺されていく。若き大尉は己の剣と推理によって事件を解決できるのか?
(裏表紙のあらすじより)
最初に頭の中でイメージしたのは、太平洋の上空を舞う鳥の目から見た映像でした。
眼下に広がる、見渡す限りの大海原。
強い海風が波頭を泡立て、空は晴れ渡っているのに、なぜか映像は、嵐の到来を予感させる不穏さを孕んでいます。
荒波を蹴散らして進んでいく、七隻の海賊船。
マストの先に誇らしげにはためく海賊旗。
甲板の上の、不敵な顔つきの海賊たち。
しかし独立不羈の海賊たちが、なぜ徒党を組んでいるのか。
彼らは、どこを目指しているのか。
海賊船が向かう先に目を凝らすと、彼方に小さな島影が見えます。
七隻の海賊船は、あの島を目指しているらしい。
世界中のどの海図にも載っていない、海賊たちだけが知る秘密の島。
そんな一枚の〈絵〉から想像を前後左右に広げてストーリーをつくりました。
陸地も海も、地球上のあらゆる場所が探索されつくそうとしている現代に暮らしていると、世界地図のあちこちが空白だったり、想像で描かれていた時代に生まれていたら、どんな人生を送っただろうと思うことがあります。
この小説を書いているあいだも、そんなことを何度も想像しました。
地味なものから派手なものまで、思いついた中でいちばん気に入ったのは、世界の果てを目指す探検家の船に記録係として同行するという設定でした。
国王の命により組織された大船団に乗り込み、故郷の港を出発します。
目的地がどこなのかは誰も知りません。これまでに人類が到達した最も遠い地点の、さらにその先を目指すのです。
船尾の手すり越しに、ゆっくりと遠ざかっていく街並みを眺めながら、胸に去来するのはささやかな感傷か、それとも抑えきれない高揚感か。
数ヶ月の退屈な航海を経て、船団はついに未知の領域へ足を踏み入れます。
初めて目にする土地や人々の営み。風景や、生き物や、言葉や風俗について、まっさらなノートを記録と考察で埋め、スケッチを描き、地図を書き加えていく日々。
楽しいことばかりではなく、嵐や、疫病や、そして海賊の襲撃をうけ、仲間たちは次々に命を落とし、船の数は減っていきます。
そして数年の後、大海原の彼方に途轍もない大きさの氷の大地を見つけ、雪のように真っ白な熊や、よちよちと歩く不思議な鳥の群れを夢中でスケッチしているうちに、氷のクレパスに足をとられ、痺れるように冷たい海に落ちた瞬間、脳裏をさまざまな思いが駆け巡り――。
走馬燈の記憶の中には、太平洋の小さな島で遭遇した元軍人と元俳優だという不思議な海賊コンビの思い出があるかもしれません。