慣れない山道に迷い、無人駅での一泊を余儀なくされた大学生の佐倉と高瀬。だが深夜、高瀬は駅前の理髪店に明かりがともっていることに気がつく。好奇心に駆られた高瀬が、佐倉の制止も聞かずに店の扉を開けると……。
(裏表紙のあらすじより)
第4回ミステリーズ!新人賞をとったデビュー作、「夜の床屋」を起点とする連作短編集です。
そして現時点での代表作でもあります。
内容は……予備知識なしで読んで頂くのがお勧めです。
続編を書くのは不可能だし、似たようなものを書くのも、たぶん難しい。
再生産がきかない一点もの、というのが良かったのかなあ、と作者は想像しています。
子供の頃、私は読書感想文が大の苦手で、夏休みの課題図書など、休みの初日に速攻で読んでしまうくせに、感想文に渋々とりかかるのはいつも八月三十一日で、たった二枚の原稿用紙を埋めるのに、だらだらと一時間も二時間もかかっていました。
(当時の気持ちは今となっては覚えていませんが、きっと感想文を定型にはめて書くのを良しとしなかったのでしょう。かといって自分の心情を素直に書き綴るのは恥ずかしくてできない。そりゃ書きようがないよなあ、と思います)
それはともかく、あの頃の自分にこの本を手渡して、感想を聞いてみたい気がします。
彼は果たして「面白かった」と言ってくれるのか。我がことながら予想がつかず、なかなかスリリングです。
しかし当時の私に、「実はこの小説、未来の君が書いたんだぜ」と教えても、信じない可能性が大です。
「だってこれ、300ページもあるじゃない。ぜったい無理だよ。800字の感想文を書くのも、こんなに苦労してるのに」
「それが、なぜか書けちまったんだ。不思議だろう?」
「だけど名前が違うじゃないか」
「世の中にはペンネームというものがあるんだ。ほら、俺たちの名前って、いまいち地味というか、エンタメ向きじゃないだろ。だから別の名前をつけたんだ。戦略的命名というやつさ」
「ふーん。でも、どうして沢村浩輔って名前にしたの?」
「うむ、よくぞ訊いてくれた。それはだな――」
……話がそれました。
というわけで、読書感想文が苦手だった人にも、得意だった人にも。
『夜の床屋』。好評発売中です。